このデモでは、Rパッケージ plspm
に収録されている銀行顧客満足度データに PLS-EMA(Partial Least Squares
Exploratory Mediation Analysis)を適用します。
顧客の期待と顧客満足の関係を、知覚品質と知覚価値に関する複数の質問項目が どのように媒介するかを探索します。
PLS-EMAは、媒介変数を1つずつ分析する方法ではありません。複数の媒介候補を 同時に扱い、説明変数と関連し、同時に結果変数とも関連する多変量成分を抽出 します。
satisfaction
は、スペインの金融機関の顧客250名を対象とした顧客満足度
調査データです。28変数のうち、最初の27変数が6つの構成概念に対応する
質問項目です。
| 構成概念 | 略称 | 項目数 | 内容 |
|---|---|---|---|
| イメージ | IMAG | 5 | 評判、信頼性、顧客への配慮など |
| 顧客期待 | EXPE | 5 | 商品、サービス、対応、総合的品質への期待 |
| 知覚品質 | QUAL | 5 | 商品・サービスの信頼性、品揃え、助言、総合品質 |
| 知覚価値 | VAL | 4 | 便益、投資価値、品質と価格の関係 |
| 顧客満足 | SAT | 4 | 総合満足、期待の充足、理想との比較 |
| ロイヤルティ | LOY | 4 | 再選択、推奨、ブランドへの忠誠 |
このデモでは、次の3ブロックを使用します。
| PLS-EMAブロック | 使用する構成概念 | 項目数 |
|---|---|---|
| 顧客期待(EXPE) | 5 | |
| 知覚品質(QUAL)+知覚価値(VAL) | 9 | |
| 顧客満足(SAT) | 4 |
各ブロックの潜在スコアを
とします。
PLS-EMAでは、次の目的関数を用いて3つのスコアを抽出します。
この目的関数は、次の性質を持つ媒介成分を優先します。
マルチセットPLSの計算には、loadings::multipls_geigen()
を使用します。 lvsem::pls_ema()
がデータの準備、成分抽出、経路推定、ブートストラップを
まとめて実行します。
library(lvsem)
data("satisfaction", package = "plspm")
dim(satisfaction)
# 250 28元データの列位置に基づいて、解析で使用する項目名を設定します。
names(satisfaction)[6:10] <- paste0("EXPE", 1:5)
names(satisfaction)[11:15] <- paste0("QUAL", 1:5)
names(satisfaction)[16:19] <- paste0("VAL", 1:4)
names(satisfaction)[20:23] <- paste0("SAT", 1:4)fit <- pls_ema(
data = satisfaction,
x = paste0("EXPE", 1:5),
mediators = c(
paste0("QUAL", 1:5),
paste0("VAL", 1:4)
),
y = paste0("SAT", 1:4),
br = 1000,
seed = 20260720
)
print(fit)ブートストラップでは、顧客を単位として1,000回の復元抽出を行います。 各標本について、マルチセットPLS成分と経路係数を最初から再推定します。
fit$covariance| 指標 | 推定値 |
|---|---|
| 1.2097 | |
| 1.0443 | |
| 0.3771 | |
| 目的関数値 | 1.8769 |
ここで示した共分散は、マルチセットPLSが出力する未標準化スコアに基づきます。 したがって、値が1を超える場合があります。経路推定では、3つのスコアを それぞれ平均0、標準偏差1に標準化します。
fit$effects| 効果 | 推定値 | Bootstrap SE | 95%区間 |
|---|---|---|---|
| 経路 :期待→媒介成分 | 0.8218 | 0.0224 | [0.7756, 0.8609] |
| 経路 :媒介成分→満足 | 0.9003 | 0.0626 | [0.7796, 1.0218] |
| 間接効果 | 0.7399 | 0.0571 | [0.6356, 0.8592] |
| 直接効果 | −0.1190 | 0.0800 | [−0.2788, 0.0332] |
| 総効果 | 0.6209 | 0.0474 | [0.5194, 0.7048] |
顧客期待から媒介成分への経路 と、媒介成分から顧客満足への経路 は、ともに正の値でした。間接効果 の95%ブートストラップ区間は 0を含みませんでした。
一方、直接効果の区間は0を含みました。このデータとPLS-EMAの目的関数の 範囲では、顧客期待と満足の関係は、品質・価値項目から構成される媒介成分に 強く表現されています。
fit$mediators| 順位 | 項目 | 構成概念 | Loading |
|---|---|---|---|
| 1 | QUAL2 | 知覚品質 | 0.8397 |
| 2 | VAL1 | 知覚価値 | 0.8268 |
| 3 | QUAL4 | 知覚品質 | 0.7857 |
| 4 | VAL4 | 知覚価値 | 0.7830 |
| 5 | QUAL5 | 知覚品質 | 0.7718 |
| 6 | QUAL1 | 知覚品質 | 0.7523 |
| 7 | QUAL3 | 知覚品質 | 0.7239 |
| 8 | VAL2 | 知覚価値 | 0.7198 |
| 9 | VAL3 | 知覚価値 | 0.6602 |
知覚品質と知覚価値の両方の項目が、媒介成分に高いloadingを示しました。 抽出された成分は、品質だけ、または価値だけを表すものではなく、品質と価値を 統合した顧客認知の成分と解釈できます。
pls_ema() の結果から、次の情報を取り出せます。
# 経路効果とブートストラップ区間
fit$effects
# 媒介候補のweightとloading
fit$mediators
# 目的関数を構成する共分散
fit$covariance
# 標準化されたX、M、Yスコア
head(fit$scores)
# ブートストラップごとの効果推定値
head(fit$bootstrap)
# loadingsパッケージが返すマルチセットPLS結果
fit$multiset_fitPLS-EMAは探索的な多変量成分抽出法です。
この分析では、顧客満足 の情報を使用して媒介成分 を構成して います。そのため、通常の確認的PLS-SEM媒介分析や、今井らの方法による 因果媒介分析とは異なります。
このデモから、次のように結論することはできません。
報告された は、PLS-EMAで抽出したスコア上の記述的な間接効果です。 本結果は、「顧客期待と顧客満足を結ぶ品質・価値認知の多変量成分が得られた」 という探索的な結果として解釈します。
PLS-EMAを銀行顧客満足度データに適用し、顧客期待と顧客満足を結ぶ 品質・価値認知の多変量成分を抽出しました。
PLS-EMAは、多数の質問項目から媒介構造と整合する成分を探索する方法として 利用できます。ただし、因果媒介分析とは区別して使用する必要があります。
sessionInfo()解析には次のRパッケージを使用します。
lvsemloadingsplspm